食物アレルギー
食物アレルギーのQ&A
Q1:離乳期にアレルゲンになりそうな食物の開始時期を教えてください。
A:何らかのアレルギー症状が出ていない場合は、基本的には、除去食は不必要です。
離乳食の開始の時期を年々前倒しにしてきた厚生省の指導内容も数年前から反省期に入っています。私は、離乳は5カ月後半から6カ月から、または体重6キログラムを目安としています。
離乳食の目的は何でしょうか?。カロリーを補うことではありません。母乳や牛乳に勝るカロリー源はこの時期にはほかにはないからです。つまり離乳の目的はカロリーを補うことではなく、それまで母乳や粉ミルクという液体を飲み込むことに慣れていた赤ちゃんが、将来固形物をかんで食べるための準備期間なのです。また母乳や粉ミルク以外の味にもなれる、そのような時期なのです。
しかしながら、両親や同胞にアレルギーの病気があったり、生後間もないころから、湿疹がひどかった場合には、アレルギーのリスクがありと考えて卵の導入を遅らせます。一般的にこの時期の食物アレルギーの原因となりやすいものを5大アレルゲンといいます。卵、牛乳、大豆、米、小麦です。
2番目の牛乳については、母乳から人工栄養に切り替えたときから湿疹がひどくなったり、吸入中の母親が吸入や乳製品を摂取している場合には、吸入アレルギーの可能性も否定できないために、母親の乳製品の摂取量を減らしてもらったり、牛乳アレルギー用のミルクを使ったりすることもあります。
それ以外の食品については、特殊な場合を除いては上に述べたような通常の離乳プランの中に加えていきます。
Q2:アレルギー検査をしないでアレルギーと診断し、除去食を指示されることはあるのでしょうか?
A:一般的には皮膚検査や血液検査を行い、ある程度の見当をつけてから確認診断のために食物除去テストや食物負荷テストをします。
この手順を踏まないで診断する場合があります。それは食物を食べ10分から15分以内にショック症状となる、アナフィラキシーと呼ばれる場合です。この場合は因果関係が明白なためにその場でかなりの確率で診断できます。たとえばソバアレルギーなどです。
従ってショック型の反応以外の場合、何らかの検査をしないで断定的に食物アレルギーと診断するのは多くの場合にはその根拠に問題があるといえます。
Q3:皮膚検査、血液検査で陽性になった場合、除去する必要のある検査値を教えてください。
A:食物アレルギーの診断においては皮膚検査、血液検査はあくまでも補助テストです。多くの場合この検査だけで除去食を決定するのは科学的根拠に乏しいといえます。
とくに日常でよく見られる乳幼児のアトピー性皮膚炎の場合、すべての場合が食物アレルギーで起きているわけではありません。それを血液検査だけで診断し、除去を指導することは、乱暴な言い方をすれば、十羽ひとからげに片付けてしまうという問題のある医療行為といえましょう。
食ということは人間に非常に重要です。ましてや発育中の乳幼児にとり不必要な食物制限を課せられるということは、発育に問題を生じるかもしれないし、栄養を管理している方に不必要な努力と労力、さらにストレスを強いることになります。
しかしながら血液検査において、特異的IgE抗体が 3以上の場合には、食物除去テストや食物負荷テストをすると一致する場合も少なくありません。
Q4:除去食が必要とされる子供の症状、年齢はあるのですか?
A:食物アレルギーと正しく診断されたならばその食品は除去するのが治療の第一です。従って年齢、症状には一切関係なく食物アレルギーであるということを正しく診断することが最も重要な第一ステップです。
アトピー性皮膚炎は食物だけが原因で起こるわけではありません。従ってアトピー性皮膚炎があるからこれは何らかの食物が必ず関与しているというふうに断定的に診断するのは、全く医学的根拠のないことなのです。
Q5:食物除去はいつまで続ければよいのですか?
A:乳幼児のアトピー性皮膚炎の場合、通常6カ月または1年をめどとして制限食を継続します。その後必要に応じて皮膚検査や血液検査をします。そして皮膚検査の反応が低下していたり、血液検査での数値が低下していれば注意しながら再び食べさせます。しかしながら皮膚検査や、血液検査が陽性でもその食物を食べられるようになることはまれではありません。その場合は医師と相談しながら注意して負荷テストを行います。負荷テストというのは注意しながら原因の食品をまた少量ずつ食べさせることです。
しかしながら食物を食べた後にショックになるような場合は、今述べたようには簡単にはいきません。ショック、医学用語ではアナフィラキシーといいますが、これは血圧が下がったり呼吸困難になったり放置すれば場合によっては死に至る激烈な反応のことです。
皮膚にじんましんや湿疹が出るという反応はこのショック(アナフィラキシー)ではありませんので混同しないようにしましょう。
いずれにせよある期間食物を除去しその後また食べさせる場合には不用意に食べさせると思わぬ事故が起きることがあるので慣れた医師の指導のもとに慎重にやることが絶対に必要です。保護者の自己判断でやることは全くお勧めできません。
Q6:除去していて症状が見られなくなくても食物制限を続けるべきなのでしょうか?
A:卵を例に取ってお話ししましょう。卵アレルギーが疑われ、卵自体および卵の入った製品例えばお菓子など、一切を食べないようにして、2週間たってもアトピー性皮膚炎の症状がまったく変わらない場合には卵はアトピー性皮膚炎の原因ではないといえます。
それにもかかわらず卵除去を継続することはお子さんの苦痛、保護者のストレスなどさまざまの生涯を引き起こします。このような指示は不適切であり、極論すれば医療ミスでもあります。しかしながら、食物アレルギーについては正しい対処方法がほとんど知られていないために、一般的にはこのような非常に困ったことが多発していることも事実です。
Q7:食物アレルギーの診断はどのようにしてするのでしょうか?
A:ショック型の場合にはその状況を保護者の方からうかがえば多くの場合、原因が推定できます。
問題はアトピー性皮膚炎の場合です。皮膚炎の場合には食べて、10-15分以内に症状が出る場合と、半日経ってから症状が出る場合、さらにツベルクリン反応のように1日から2日たって初めて症状が出る場合があります。
実際には時間がたってから症状が出る場合はその頻度がかなり低下します。しかし診断にあたっては1日から2日遅れて出る場合もあるということを頭におく必要があります。
皮膚検査や血液検査はあくまで補助テストです。アトピー性皮膚炎の場合にはこの検査だけで診断しその食物を除去してはいけません。検査が陽性でも食べられる場合が何割かあるからです。
それを見分けるのが食物除去テスト、負荷テストです。これはよく慣れた医師と相談し注意して行うことが必要です。
アトピー性皮膚炎の原因がはっきりしない場合に、この食物除去テスト負荷テストを行なわないで、特定の食べ物を制限するということは全く医学的根拠のないことです。
アトピー性皮膚炎は食物アレルギーだけで起きるわけではありません。従って本当に食物がアトピー性皮膚炎の原因になっているかどうかということ確認する必要があります。くれぐれも血液検査だけで特定の食物を制限しないようにしていただきたいと思います。
ただし特定の食物を食べて15分以内にすぐ症状が出る場合には、かなり因果関係が明らかです。このような場合には血液検査をして陽性に出ていれば確認がとれたと考えて除去を始めてもよいでしょう。
Q8:食物アレルギーの治療に、抗アレルギー薬の内服をなぜ使うのですか?
A:食物アレルギーの治療の原則は、その食品をある期間除去をすることです。抗アレルギー薬は食物アレルギーの治療にはなりません。
たとえばアトピー性皮膚炎を例にとると、食物を除去しても症状が完全には消えない場合が多いのです。このことは、アトピー性皮膚炎が食物だけで起きるわけではないということを示しています。 食物を除去しても皮膚のかゆみが取れない場合に抗アレルギー薬を使用すると、そのお薬の持つ抗ヒスタミン作用という働きがかゆみが減少する場合があります。そのために抗アレルギー薬が使用されるのです。
薬理学的には、確かに抗アレルギー薬には多少の炎症を抑える働きがありますが、その力は弱くそれだけで食物アレルギーを抑えることはほとんど不可能です。
言い換えれば卵を食べると皮膚がかゆくなる人がこの抗アレルギー薬を飲みながら、ゆで卵を食べたり目玉焼きを食べたりしても症状はほとんどを抑えられないということです。
確かに抗アレルギー薬は乳児が長期たとえば1年間使用してもまず問題がないというデータが出ていますが、それとこれらの薬が食物アレルギーを治すということは全く別の問題です。
Q9:食物除去した場合に、栄養のバランスが心配なのですか?
A:その食物を除去すれば、当然その食物に含まれる栄養成分は摂取されなくなります。発育期にある子供にとって栄養のバランスは極めて重要な問題です。
私のクリニックではひとり30-40分の時間をとって、栄養士さんが個別に一人ひとり食事指導をします。この個別指導を受けることにより除去食の進め方や、市販の食品を使う場合の注意点、さらに食材の選び方及び調理方法などにつき、納得がいくまで質問し知識を得ることができます。
そうでない場合には代用食品のリストをもらい、食品の数を多くして栄養を補います。
Q10:除去中の食品用誤って食べた場合には、どのようにしたらよいのでしょうか?
A:日常生活とくに、兄弟がいる場合や保育園や幼稚園などの場合、他の後の食べているものを食べてしまう場合は少なくありません。子供は他の人と同じようにしたいために、他の人が食べているものは非常に気になるのです。
食べてもケロットとして何の症状も出ない場合には、そのまま観察すればよいでしょう。長時間観察し何の症状も出なければ安心するとともに、その食品について除去をそろそろ中止し、再び食べられるようになるかどうかは食物負荷テストをそろそろ考えるとよいでしょう。
食べて皮膚が赤くなったり、じんましんが出た場合にはすぐ手持ちのお薬を塗って、保育園の場合には保護者に連絡しその後の対処方法を考えます。
食べた直後に激しく咳をしたり、ゼーゼー、呼吸困難になったりした場合には、ショック(アナフィラキシー)と考えてまず近くの病院に連絡をし、すぐに連れていきます。ショック型の症状はまれではありますが万一実現した場合には1分でも速い処置が望まれます。
Q11:食物アレルギーの予防に使われるインタールとはどのようなお薬ですか?
A:インタールというお薬は一般的には喘息の予防的治療薬として吸入薬として使用されたり、花粉症の際に、点鼻薬や、点目薬として使用されます。
これを内服薬にしたものが食物アレルギーの予防に用いられることがあります。このインタールを食前15-20分前に内服しておくと、原因の食物を食べても消化管からそれが吸収されないため食物アレルギーを予防できるといわれています。
確かにこの薬により症状を予防できる場合もありますが、一般的にはこの薬は万能ではなく、これを食前に内服しておけば何でも食べられるというような魔法の薬ではありません。
外食などでやむを得ずその原因物質が混入しているものを食べる恐れがあるという場合などに用いられるのが正解です。ですから食物が原因かどうかははっきりしないアトピー性皮膚炎の患者さんにいたずらにこのインタールの内服薬を飲ませ続ける必要はまったくありません。極めて限られた場合にその効果を発揮する特殊な薬と考えてよいでしょう。
Q12:制限していた食物が再び食べられるようになるようになるのは、なぜですか?
A:以下の3点が考えられています。
(1)網目理論
腸の表面は細かい網目状になって、生後数カ月の乳児の場合はその網目が大きいと考えられています。成長につれてその網目がどんどん小さくなります。
この網目が大きいと食物は大きな分子量のままで体の中に取り込まれてしまいます。体の免疫組織はこれを異物としてとらえます。免疫組織がこの食物を異物として認識すると食物アレルギーが起きてしまいます。
ですから食物アレルギーと診断をされたら、半年から1年間、その食物を摂取しないようにします。その間にこの網目がだんだん小さくなるために、またその食品を食べても今度は体の中に吸収されにくくなります。したがってアレルギーが起こりにくくなるのです。
(2)免疫学的寛容
消化管を通して体の中に入ってきた食物は初めのうちは、異物として認識されても、ある期間、その食物を摂取しないと、体の反応性が変化(低下)して異物として認識しなくなることがあります。これを免疫学的寛容といいます。
特に小児の場合この現象が、成長とともにおきやすいと考えられています。もちろん成人においても同様のことは起きる場合がよく見られます。
(3)免疫タンパク(免疫グロブリン)IgAの増加
腸の表面にあり体の中に入ってくる異物や細菌などから生体を守る、免疫グロブリンというたんぱく質があります。このなかのIgAというたんぱく質が成長につれて、増加することが知られています。これが赤ちゃんの時には量が少ないのですが、その後成長につれて増加し、その結果食物アレルギーが起きにくくなると考えられています。
以上のような3つの理論が食物アレルギー治癒のメカニズムの主なものと考えられています。
アレルギー疾患の各病気を説明していきます。