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アレルギーのお話


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  外国生活(旅行、滞在)とアトピー性皮膚炎

 

アトピー性皮膚炎はこの20年に急増したため、不明の点が多いのです。専門クリニックでは0-5歳では原因の20%が食物、2-3からハウスダストが15%、思春期以降はストレスが大きな部分を占めるといわれています。
これら以外の因子は多数あり、また個人により異なるため、アトピー性皮膚炎診療において原因を知りたい、患者さんのご希望には添えない場合もあり、申し訳なく思っています。
 
理由ははっきりしないのですが、外国に行くと難治性のアトピー性皮膚炎がよくなるという患者さんには何人か遭遇しており、それはどうしてなのかと、不思議に思っています。 以下に良くなった4ケースと悪化した2ケースを紹介しましょう。
 

(ケース1)

14歳、男、1歳より重症アトピー性皮膚炎。各種の治療を行うも、症状が軽くならず、一時は不登校になりかけた。14歳の夏休みに、見かねた祖母が費用を出すからといって、家族でカナダを1週間旅行した。旅行中から皮膚症状は軽快し、帰国時には皮膚は見違えるようになった。その後、軽度の再発はあるが以前ほどではなくなった。現在、ステロイド軟膏、プロトピック軟膏の使用で状態は安定している。
 

(ケース2)

11歳、女、ケース1とほぼ同様の経過で特に顔面の難治性湿疹が著名であった。食物アレルギー(負荷試験で確認)のため卵、牛乳制限中であった。夏休みに家族でパリを中心にフランスで2週間過ごした。ケース1と同様の経過でよくなった。顔の湿疹を気にして、それまで内向的であった性格が徐々に明るくなり、自信がついた。現在は時折、弱いステロイド軟膏を使用するだけで、保湿剤でコントロールされている。
 

(ケース3)

8歳、男、中等症のアトピー性皮膚炎。昨年、インドネシアのジャカルタへ父親の仕事の都合で引っ越した。母親は汚いから(なんという差別感覚!)、行きたくないといって嫌々の転居だった。半年後に一時帰国で来院した。皮膚の状態がかなりよいので、問いただしたところ、向こうへ行ったから1-2ヶ月で徐々に皮膚がよくなり、半年後にはほとんどツルツルになった。不思議に思って、駐在員の奥さんたちに聞いたところ、同様の現象はよく見られるといわれた。
 

(ケース4)

1歳8ヶ月の男児。父親が日本人、母親が中国人(海南島)。8ヶ月の子供を連れて日本に帰国したが、子供の皮膚症状の悪化と妻の日本への適応障害のため、また1年間海南島に戻った。子供の皮膚症状は1-2週で著名に改善した。今回、再び一時帰国したところ、皮膚の悪化の兆候が出現し、来院した。父親の悩みは、日本または海南島のどちらで今後、生活したらよいかというものであった。
 

(ケース5)

これは悪化したケースである。32歳ピアニスト。ウィーンに一人で留学して、向こうの先生について、1日8時間ピアノを弾いていた。そのため、食事はパンとチーズ、ちょっと果物をかじり、お腹が空くと、ウィーンの美味しいチョコレートを食べていた。
ピアノの腕はよく、ベートーベンのピアノ曲が得意だった(かなりの腕!)。しかし、非常に緊張しやすく、大事なテストでは急に指が動かなくなるということも経験した。
滞在8ヶ月から湿疹が悪化した。コンテスト出場のストレスと偏った食生活が皮膚症状の悪化の一因と考えられる。母親が日本から来て、食事などの身辺のケアーをしてから、皮膚症状は軽快した。
ケース1,2,3,4は外国生活が短期でもまた長期でも、皮膚症状に良い影響を与える可能性があることを示しています。ケース5は食生活の乱れと、過度のストレスが皮膚を悪化させていることが明らかです。
これ以外のケースでも、例えば、この数年間、温暖化のため、旱魃となっているオーストラリア、ニュージーランドへ留学した高校生、大学生は、ドライスキンが悪化し、結果的にアトピー性皮膚炎がひどくなったケースはよく来院します。外国へ行けば、皮膚炎が必ずよくなるわけではないといえます。
 
断定的なことはいえませんが、日本という環境、日本におけるその患者さんを取り巻く環境因子(食事、心理的ストレス、添加物、水、大気汚染、農薬、等)がその患者さんに合わないのかもしれません。
20-30年前は、地方に帰省すると皮膚症状はよくなる傾向があったが、このところ、その傾向はあまり見られません。日本において、生活環境の差が地方と東京では減ってきたため、田舎に帰省しても症状が軽快しないのでしょうか。
 
上述の例では、低年齢はHygenic Theory(衛生仮説、後述) が当てはまるかもしれませんが、自我が発達してから以降は、何らかの心理的因子の関与が疑われるように思えます。
 
付記:衛生仮説
 
成長期の環境が清潔すぎると、遭遇する細菌感染の機会が減るため、アレルギーを抑制するに十分な免疫的刺激を受けないために、その後アレルギー疾患がおきやすくなるという仮説。乱暴な言い方をすれば、日本はきれいになりすぎたため、アレルギーがおきやすくなったという考え方。(この点については別のお話で触れます。)

2014/8/15