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お薬のお話


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  喘息発作への対応

 

図表無し、文献1
 

Summary

 
この20年で喘息予防薬、発作治療薬は大いに進歩した。かつては最良と思われた治療法がその座をその滑り座を落ちたり、現在ではより良い方法が開発されたために、それ程、顧みられなくなったものもある。今回、代表的な喘息発作治療薬について、筆者の経験を元に述べる。
 

Key word

 
エピネフリン、β2刺激薬、 イソプロテレノール、テオフィリン
 

はじめに

 
気管支喘息は、その主な誘因が心理的と考えられていた時代もあったという。その時代にはエフェドリンが主な治療薬であったといわれている。喘息治療の良い薬が無かった大正時代の孤高の天才画家、青木繁も貧困のうちに喘息で亡くなったと、伝えられている。
戦後、喘息研究の進歩に伴い各種の予防薬、発作治療薬が登場し、以前とは比べ物にならないほど、発作治療は行いやすくなった。以下、それらの主なものについて述べる。
 

発作治療薬

 

1 エピネフリン(0.1%)

 
エピネフリン(0.1%)の0.1-0.3mlの皮下注射は有効であり、以前より行われていた。気管支拡張作用といえばβ2刺激薬が良く使用されるが、エピネフリンα作用とβ作用の両者を兼ね備えているため、急性喘息発作時にはα作用による気道粘膜の浮腫を抑え、同時に気管支拡張作用も持つため依然として使用されている。
エピネフリンの半減期は数10秒のため、その効果は即効性であるが、効果は持続しにくい。そのため15分後に再び救急室を訪れることも少なくない。従って、他の治療法との併用が必要になることも考慮して使用すべきである。しかし、成人ではβ2刺激薬の吸入でも効果が得られないときには考慮されるべきである。小児では救急時には、最初に使用された時代(1970年代ころ)もあった。近年はあまり行われない。
3年前よりアナフィラキシー治療用の自己注射としてエピペン(メルク)が使用できるようになった。この薬の特長を生かした救急薬として広く使用されるようになり、ハチ毒、食物、薬物、運動などによるアナフィラキシーの初期治療に福音をもたらした(著者は小児から成人の40名に処方し、3例が無事に使用した)。
 

2 β2刺激薬の吸入

 
かつてはβ2刺激薬のMDIと手にしたまま寝室で死亡した患者さん、また長期入院療法の小児がこっそりとβ2刺激薬のMDIをポケットに忍ばせているのを、看護婦さんに発見されたなどという話も、耳にした時代もあった。以後、この突然死と本薬の因果関係には議論が多いが、学会で話題に取り上げられるなどしたため、医師や患者さんの間でも使用頻度などに気を配るようになった。特にα作用も有するイソプロテレノールの効果はきわめて高いものの、リバウンドも出やすく注意が必要である。ブラインドにしてイソプロテレノールとβ2刺激薬のMDIを喘息発作時に吸入してもらうと、ほとんどの患者さんはイソプロテレノールを選択するという。
近年は心刺激の少ない選択的β(β2)刺激薬のMDIが広く使用されている。MDIに加えてpMDIのタイプも使用できるようになった。
 

3 イソプロテレノール持続吸入療法

 
1970年代には喘息重積状態の治療は、現代とは比較にならないほど手段が限られていた。テオフィリンの血中濃度も測定できず、ステロイドの全身投与や効かなくなりそうになると、ベッドサイドで患者さんの呼吸が止まる前から気管内挿管の準備をした時代もあった。
気管内挿管は手技が煩雑であり、全身麻酔下で行うため管理も大変であった。その後、イソプロテレノールを微量点滴することにより気管内挿管まで行わずに治療できる場合があるため、微量持続点滴する方法が行われるようになった。これは即効性があり、有効な場合は10分で見る見る呼吸状態がよくなる事もまれではなかった。しかし、イソプロテレノールにはα作用も強いため、治療中に、不整脈を起こす場合も少なくなかった。心拍数を180/分 以上に上昇させないと気道が開かないため、不整脈が起こることは常に警戒しければならなかった。
また使用開始直後には使用量の目安として心拍数が指標とされた。小児の場合、点滴開始後、一気に心拍数を毎分180-200に上昇させる方法が当時、行われた。反応の悪い例は、開始直後に増量しても心拍数の上昇が不良の場合が多かった。さらに急に中止するとリバウンドを来たしやすいため、次の治療法(気管内挿管)念頭におく必要もあり、管理する立場としては、有効ではあるが、なかなか面倒な治療法であった。
これを克服するために行われるようになったのが、イソプロテレノール持続吸入療法である。これの登場により喘息重積状態の治療は飛躍的に進歩した。微量持続点滴法のような不整脈の出現の可能性、リバウンドなどの厄介な管理上の問題点も、微量点適法に比べて少なく、良い方法といえよう。
この方法の欠点の一つは、大量にイソプロテレノールが必要であることであった。24時間で数10本消費するため、年末で医薬品の卸しが休みのため、病院内の在庫が無くなり薬剤部が慌てて、他の病院に電話をしたところ、この薬はどの病院でも大量には備蓄しないため断られ、困ったこともあった。この治療法の詳細はガイドラインを参照されたい。
 

4 クロモグリク酸ナトリウム(インタール)

 
喘息の予防薬ではあるが、発作時にはそれとβ2刺激薬の液をネブライザーで吸入する方法は小児から成人まで広く使用されている。インタール自体は非常に安全な薬であるが、吸入液はネブライザーが必要であるという点が欠点である。
インタールとβ2刺激薬の液を混合して吸入する場合は、発作時のみ行う方法と、レギュラーユースといい、一日に2-3回定時吸入する場合がある。小児の場合以前はこのレギュラーユースはかなりの長期間(半年以上)にわたり行われた時期もあった。しかし、近年、吸入ステロイドの安全性と有用性が認められ、レギュラーユースを中止すると症状が再燃する場合は、早めに吸入ステロイドへの切り替えが勧められている。著者も、以前よりもかなり早いタイミングで吸入ステロイドへ移行している。
成人ではレギュラーユースというよりも、中等症以上で発作に際に、ネブライザーを用意しておき、β2刺激薬の吸入液とあわせて早めに吸入することにより、他の治療と併用することによって、喘息をコントロールしやすくなる場合もある。
以前より、インタール吸入をするようになると、カゼを引きにくくなるケースがよく見られるという現象は臨床医の間では話題になっていたが、基礎的実験のデータでもインフルエンザウイルスの気道粘膜への接着を抑制するということも確認されており、抗アレルギー薬と位置付けられているが、それ以外の作用も持つ興味深い薬といえよう。
本薬は発売以来35年が経過したが、副作用の先ず無い、きわめてユニークな吸入薬である。この薬は吸入ステロイドに比較すれば抗炎症作用は弱いが、副作用がまず無いため、治療の際に考慮すべき薬のひとつである。
 

5 テオフィリン薬

 
テオフィリン薬の血中濃度が測定できるようになる以前は、テオフィリンは使いにくい薬、または効く例と効かない例の区別はつきにくい薬であった。血中濃度が測定できるようになってから、喘息発作時に点滴またはワンショットで静脈内投与するテオフィリンは、こわごわ副作用の発現におびえながら使用する不安な時代から、血中濃度をモニターしながら一気に使用できる時代に入った。血中濃度測定が可能になる以前は、成人では急性発作の際は、静注用のテオフィリンを2本(20ml)用意し、ゆっくり静注し、嘔気が出たらその時点で中止するなどという方法もあったという。
近年、小児特に乳幼児における痙攣との関連が指摘され、乳幼児や痙攣の既往がある場合には、使用が控えられるようになった。
近年、抗炎症作用のあることが示された。小児でも上記の年齢以上では、その使用を控える必要はまったくないといえる。痙攣体質の場合はその使用は慎重にする点さえ念頭に置けば、良い薬といえよう。
血中濃度モニターにより安全に使用できるようになっただけでなく、以前の基準よりもかなり低い濃度でも臨床効果が望めることも明らかとなった。喘息発作治療において、気管支拡張作用のあるものはβ2刺激薬の吸入とテオフィリン点滴も含めた静脈内投与である。テオフィリンの副作用をあまりに恐れると、特に小児の場合、インタールとβ2刺激薬の液を混合吸入が奏効しない場合、次にとる方法はステロイドの全身投与となってしまうので、テオフィリンを正しく使用することが望まれる。
 

今後の展開

 
発作時の抗ロイコトリエン薬の注射薬はその効果が期待される新しい薬品である。
昨年(平成18年)9月に乳幼児にのみ適応が認められたブデソニド(パルミコート)吸入液は、発作の初期であればβ2刺激薬とあわせて吸入する(文献1)と、β2刺激薬単独またはインタールとβ2刺激薬の混合液の吸入よりも、発作を抑える効果はより強い場合があり、純粋な急性発作治療薬ではないが、発作時にβ2刺激薬と混合して吸入すると気管支拡張薬の効果がより望める場合もあり、興味深い。
 

まとめ

 
喘息発作治療薬の評価はこの30年で大きく変化してきたことは上述のとおりである。現在、私たちが良いと思う治療薬の評価は将来大きく変わるかもしれない。新しい作用機序を持つ新薬の登場が待たれる。
 

文献

 
1 永倉俊和:パルミコート(ブデソニド)吸入液の使用経験。アレルギーの臨床、27:559-564、2007.

2011/1/18